夫婦で言いたいことが言えない心理と、角が立たない伝え方【Iメッセージ・例文つき】
夫婦で言いたいことが言えないのは、気が弱いからではありません。「嫌われたくない」「どうせ伝わらない」「波風を立てたくない」といった気持ちが重なると、誰でも口を閉ざしやすくなります。解決の糸口は、気持ちを抑え込むことと責めることの間にある「伝え方の型」を持つことです。この記事では、「わたし」を主語にするIメッセージとDESC法を、場面別の例文つきで紹介します。
夫婦なのに、なぜ言いたいことが言えないのか
言えない背景には、相手を大切に思う気持ちと、過去のやりとりで身についた学習があります。次の4つは、編集部が相談や検索でよく見かける背景を整理したものです。
- 嫌われたくない。不満を口にして関係が悪くなるくらいなら、自分が飲み込むほうが安全だと感じる。
- どうせ伝わらない。以前に話して、はぐらかされたり、反論されたりした経験がある。
- 相手も疲れていると思う。仕事や育児で余裕のなさそうな相手に、これ以上負担をかけたくない。
- 言わなくても分かるはず。夫婦なのだから察してもらえるという期待がある。
どれも、相手への思いやりや期待から生まれたものです。ただ、気持ちを言葉にしないまま時間が過ぎると、不満は相手に伝わらず、自分の中だけに積み重なっていきます。
「話した」と「納得できた」には差がある
調査では、関係に満足していない人ほど、「話したけれど納得し合えていない」状態にあることが示されています。言えているかどうかに加えて、伝わる形で話せているかが大事だということです。
同調査では、「家事や育児の分担について」でも似た傾向があります。不満足層は話した48.6%に対して、相互に納得できた人は14.0%でした。満足層は77.6%と61.5%です。報告書は、話してはいるものの納得できていないことが、不満足の背景の一つにあると推察しています。これは関連を示すもので、原因を断定したものではありません。
同じ報告書では、満足層の8割前後が「配偶者・パートナーとの考え方が違うのは当たり前だ」と答えています。考えが違うこと自体は問題になりません。違いを、相手が受け取れる形で伝えられるかどうかが、分かれ目になりそうです。
話し方の3タイプ
自分と相手の両方を大切にする自己表現を「アサーション」と呼びます。筑波大学学生相談室の資料では、自分の権利と相手の権利を尊重した自己表現がアサーションだと説明されています。話し方は、次の3つに分けて考えられます。
| タイプ | 特徴 | 帰宅連絡がなく夕食が冷めたときの例 |
|---|---|---|
| 攻撃的 | 自分の言い分を通そうとして、相手を責めたり、押し切ったりする | 「いつもそう。私のことなんてどうでもいいんでしょ」 |
| 非主張的 | 言いたいことを飲み込む。あとでイライラが残りやすい | 「ううん、大丈夫」(本当は心配でさみしい) |
| アサーティブ | 事実と気持ちと希望を、相手を責めずに伝える | 「連絡がないと心配になるから、遅くなるときは一言ほしい」 |
例の言葉は編集部が作ったものです。同資料は、アサーションは性格ではなくスキルだと位置づけています。生まれつき言える人と言えない人がいるのではなく、練習で身につけられる型があるということです。
型その1:Iメッセージ(「わたし」を主語にする)
相手の行動を評価する代わりに、自分がどう感じたか、どうしてほしいかを「わたし」を主語にして伝える方法です。
山梨県の子育て支援プログラムの資料によると、「わたしメッセージ」と「あなたメッセージ」は、トマス・ゴードン博士が開発した『親業』の概念です。主語が「あなた」の命令や指示をあなたメッセージ、「わたし」を主語に自分の気持ちを伝えるものをわたしメッセージと呼びます。もとは親子の関わりで使われる考え方ですが、夫婦の会話にも応用できます。
| 場面 | あなたメッセージ | わたしメッセージ |
|---|---|---|
| 家事の偏り | 「あなたは全然家事をしてくれない」 | 「ひとりで抱えている気がして、つらくなってきた。分担を一緒に見直したい」 |
| 会話が少ない | 「最近ぜんぜん話を聞いてくれないよね」 | 「最近あまり話せていなくて、さみしい。週末に10分、話す時間がほしい」 |
| スマホ | 「いつもスマホばかり見てる」 | 「話しかけたとき画面を見たままだと、聞いてもらえていない気がする」 |
わたしメッセージにすると、相手は責められたと感じにくくなり、防御に回らずに聞けるようになります。ただし、Iメッセージの形をしているだけで、「わたしは、あなたが怠けていると思う」のように評価が入っていると、あなたメッセージと同じ働きをします。気持ちの言葉(さみしい、不安、助かる)を入れることがポイントです。
型その2:DESC法(事実・気持ち・希望・その後)
言いたいことを4つの順に整理して伝える方法です。筑波大学学生相談室の資料では、DESC法として次の4段階が紹介されています。
- D(描写する):事実を、評価を入れずに述べる
- E(表現する):その事実に対する自分の気持ちを伝える
- S(提案する):してほしいことを具体的に伝える
- C(選択する):相手が応じた場合、応じなかった場合の対処を考えておく
D「ここ3日、帰宅が22時を過ぎて、連絡がなかった」
E「連絡がないと事故でもあったのかと心配になるし、夕食を待っている間、さみしくなる」
S「遅くなりそうなときは、一言LINEをもらえると助かる」
C「連絡があれば、先に食べて待たずに過ごせる。難しい日があるなら、どんな連絡の形なら続けやすいか、一緒に考えたい」
ゴットマン研究所(米国)は、夫婦の話し合いで、特定の行動への不満(complaint)と、相手の人格への批判(criticism)を区別しています。「遅れるなら連絡がほしかった」は不満、「あなたはいつも自分勝手だ」は批判にあたります。DESC法のDとSは、不満の形にとどめるための手順でもあります。
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場面別の言い換え例
つい出てしまう言葉を、「事実・気持ち・お願い」の順に組み替えると、同じ内容でも受け取られ方が変わります。例文は編集部が作ったもので、そのまま使う必要はありません。自分の言葉に直して使ってください。
| 場面 | つい言ってしまう言葉 | 言い換え例 |
|---|---|---|
| 育児の分担 | 「どうして私ばっかりなの」 | 「夜の授乳が続いて、眠れなくてしんどい。平日の夜は交代してもらえないかな」 |
| お金 | 「また無駄遣いして」 | 「今月の出費が増えていて、不安になった。一度、ふたりで家計を見直したい」 |
| 義実家 | 「あなたの親はいつも口を出す」 | 「お義母さんの言葉で落ち込むことがあって、気持ちが重い。間に入ってもらえると心強い」 |
| スキンシップ | 「どうせ私に興味ないんでしょ」 | 「最近ふれあいが減って、さみしい。まず、手をつなぐことから戻したい」 |
| 感謝 | (何も言わない) | 「洗い物をしてくれて助かった。ありがとう」 |
最後の「感謝」の行は、不満を伝える前の備えにもなります。ゴットマン研究所は、安定して幸せな結婚生活を送る夫婦には、衝突の場面でも、ネガティブなやりとり1回に対してポジティブなやりとりが5回以上ある、という「マジックレシオ(5対1)」を紹介しています。普段から感謝を言葉にしておくと、不満を伝えるときの受け取られ方も変わりやすくなります。
伝える前と、伝えたあとのコツ
切り出し方とタイミングで、会話のゆくえは変わりやすくなります。
ゴットマン研究所の創設者ジョン・ゴットマン氏は、新婚夫婦130組を研究室で観察した研究から、話し合いの最初の3分間の様子で、会話のゆくえを96%の確率で予測できたと述べています。最初の切り出しが批判や皮肉で始まる形を「harsh startup(厳しい切り出し)」と呼んでいます。米国の新婚夫婦を対象にした研究で、日本の夫婦にそのまま当てはまる数字とは限りません。それでも、最初のひとことが大切だという示唆は、日々の会話に活かせます。
伝える前に
- 疲れているとき、空腹のとき、子どもを寝かしつける直前は避ける
- 「ちょっと話したいことがあるんだけど、今いい?」と、先に時間を確認する
- 伝えたいことは1回に1つにしぼる
- 言いたいことは、先にメモに書いて整理しておく
伝えたあとに
ゴットマン研究所は、指摘された側が言い訳で返したくなったときは、責任の一部を認めること、気持ちが高ぶって話し続けられないときは、いったん休憩を申し出て、20分ほど気持ちが落ち着くことをしてから会話に戻ることを提案しています。その場で結論を出す必要はありません。「いったん休んで、明日また話そう」と区切ることも、立派な伝え方です。
うまく言えなかった日があっても、気にしすぎないでください。言い換えは練習で身につきます。最初の一歩として、「ありがとう」を1日1つ増やすことから始めてみるのもおすすめです。
それでも言いにくいときは、夫婦の会話がなくなる原因と取り戻し方や、喧嘩になったあとの仲直りのコツ、夫婦仲の改善の具体策も参考にしてみてください。産後で余裕がない時期については、産後クライシスと離婚の記事で整理しています。
言えない理由が「怖さ」のとき
言うと怒鳴られる、無視される、バカにされるといった怖さが理由で言えない場合は、伝え方の工夫より、自分の安全を優先してください。この記事の方法は、お互いが安心して話せる関係を前提としたものです。
暴力や暴言、行動の制限などで困っているときは、ひとりで抱え込まず、公的な相談窓口に連絡してください。つらさが強いとき、心身の不調があるときは、医療機関の受診も選択肢です。
- DV相談ナビ(#8008):内閣府男女共同参画局が案内する全国共通の番号で、最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。通話料は固定電話と同じで、受付時間は各機関によって異なります。
- よりそいホットライン(0120-279-338):無料、24時間。厚生労働省が案内する相談窓口のひとつです。
- こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556):お住まいの都道府県・政令指定都市の「こころの健康電話相談」につながります。通話料がかかり、受付時間は地域によって異なります。
ふたりレンサは、病気の診断・治療・予防を目的としたものではありません。つらさが強いとき、DVや心身の不調があるときは、医療機関や上のような公的な相談窓口に相談してください。
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よくある質問
夫婦なのに言いたいことが言えないのは、普通のことですか?
珍しいことではありません。嫌われたくない、どうせ伝わらない、相手も疲れていそう、言わなくても分かるはず、といった気持ちが重なると、言葉にしにくくなります。リクルートブライダル総研の調査でも、関係に不満足な層では、話したことがあっても相互に納得できた人は少ない傾向が見られました。
言いたいことを言うと、喧嘩になりそうで怖いです。どうすればいいですか?
「わたし」を主語にして、事実・気持ち・お願いの順に伝えるIメッセージやDESC法が役に立ちます。相手の人格ではなく、特定の行動と自分の気持ちに絞ると、責められたと受け取られにくくなります。疲れているときを避け、先に「話してもいい?」と確認するのも有効です。
Iメッセージとは何ですか?
「あなたは〜だ」ではなく、「わたしは〜と感じる」「わたしは〜してもらえると助かる」と、自分を主語にして気持ちや希望を伝える方法です。トマス・ゴードン博士が開発した『親業』の概念で、親子の関わりのほか、夫婦の会話にも応用できます。
相手がまったく聞いてくれない場合は?
一度で伝わらなくても、焦らず、場面と伝え方を変えて試してみてください。直接話すのが難しいときは、先に自分の気持ちをメモに書いて整理する方法もあります。怒鳴られる、無視されるなどの怖さがある場合は、無理に伝えようとせず、DV相談ナビ(#8008)やよりそいホットラインなど、公的な相談窓口に連絡してください。
夫婦カウンセリングは、言いたいことが言えない場合にも使えますか?
第三者が間に入ることで、言いにくいことを落ち着いて伝えやすくなる場合があります。費用や行く前に試せることは、夫婦カウンセリングの記事で整理しています。