産後クライシスで離婚になる?「妻が悪い」ではない理由と、なりやすい状況・避け方
産後クライシスは、それだけで離婚が決まる現象ではありません。「妻が悪い」「夫が悪い」のどちらかが原因でもなく、産後のホルモン変化、睡眠不足、家事・育児にかかる時間の大きな差が重なって起きる、多くの夫婦に起こりうる状態です。この記事では、その仕組み、なりやすい状況、離婚を考える前に夫婦でできることを、調査データとあわせて整理します。
産後クライシスは離婚につながる?
つながる夫婦もいれば、そうならない夫婦もいます。産後クライシスという状態そのものは、離婚の決定打ではありません。
産後クライシスは、出産後に夫婦の愛情や関係の満足度が下がる状態を指す言葉です。医学的な診断名ではありません。2012年ごろにNHKの情報番組『あさイチ』で取り上げられて広まったとされ、内閣府男女共同参画局の広報誌『共同参画』2012年10月号でも紹介されています。同誌では、家事・育児を一緒にやろうとしない夫への妻の愛情が急に下がり、この時期の不仲が長く尾を引く、という意味で説明されています。
ネット上には「産後クライシスで離婚を考えた人が何割」という数字も出回っています。編集部が確認した範囲では、調査主体や対象を一次情報で確かめられたものが見つからなかったため、この記事では使っていません。産後クライシスを経験した夫婦のうち離婚に至る割合を示す公的統計も、確かめられた範囲にはありませんでした。
確かな根拠があるのは、次の2点です。
1点目は、産後に妻の愛情の実感が大きく下がる夫婦が、実際に調査で確認されていることです。この調査は288組の平均であり、すべての夫婦が同じように下がるわけではありません。
2点目は、日本の離婚の大半が、夫婦の話し合いで決まっていることです(後の章で数字を紹介します)。まずは、妻の愛情実感が下がる背景にある仕組みを順に見ていきます。
「妻が悪い」と言われてしまう理由と、そうではない根拠
産後の妻のいらだちや冷たさは、本人の性格や気持ちの弱さよりも、からだの変化、睡眠不足、役割の偏りという条件で説明できます。「妻が悪い」と感じてしまう場面があっても、それは妻だけの問題ではありません。
1. ホルモンの急な変化
日本産婦人科医会は、出産後の女性の30〜50%が、産後数日から2週間ほどの間にマタニティブルーズ(涙もろさや気分の落ち込み)を経験するとしています。原因は、急激な女性ホルモン(エストロゲン)の低下など、内分泌環境の変化にともなって症状が現れると考えられています。多くは産後10日程度で軽くなるとされています。
2. 睡眠不足と体力の低下
厚生労働省の母子保健情報サイト「ぼせいナビ」は、産後の気分の落ち込みについて、妊娠・出産にともなう女性ホルモンの大きな変動、心身や環境の変化、体力の低下や睡眠不足などが影響していると言われている、と説明しています。
ここで挙げた情報は、産後の気持ちの揺れについての説明です。夫婦関係の悪化そのものを説明した研究ではありません。ただ、からだが休まらない状態では、普段なら流せる一言にも反応しやすくなります。これは編集部の整理ですが、産後クライシスを考えるうえで外せない前提だと考えています。
3. 家事・育児にかかる時間の差
総務省統計局の令和3年社会生活基本調査では、6歳未満の子どもがいる夫婦と子どもの世帯で、1日あたりの家事関連時間(家事、買い物、介護・看護、育児の合計)は、夫が1時間54分、妻が7時間28分でした。2016年と比べると、夫は31分増え、妻は6分減りましたが、差はなお大きいままです。
ベネッセの同じ調査でも、妻が家事・育児を圧倒的に担っている実態が報告されています。時間も体力も奪われている妻が、パートナーに余裕のない態度を取ってしまうのは、自然な反応です。
夫が悪いわけでもない
夫の側にも、関わりたくても関われない事情があります。誰かを悪者にしても、状況は変わりません。
ベネッセの調査の委員会コメントでは、夫の就労時間と子どもとのかかわりには関連がみられるとされています。仕事が忙しく、帰宅時には子どもが寝ているという夫は少なくありません。何をすればよいか分からないまま、「手伝おうか」と声をかけて、「そうじゃない」と返されてしまう場面もあります。
夫婦の間のねぎらいも、産後には減りやすいようです。同調査の報告書には、配偶者評価の項目「夫は私をねぎらってくれる」に「あてはまる」と答えた割合が、妊娠期から2歳児期にかけて20ポイント以上減ったと記載されています。また、2009年の速報版では、愛情を保っている妻ほど、夫が家族と過ごす時間を意識して作り、妻の仕事・家事・育児をねぎらっている傾向がありました。これは相関であり、因果を示すものではありません。それでも、日々の小さな声かけが関係の温度と関わっている可能性を示しています。
夫も、慣れない生活の中で、評価されないまま頑張っているのかもしれません。妻も夫も、同じ状況に別々の位置から立っているだけです。
なりやすい状況は、性格ではなく条件の重なり
「産後クライシスになりやすい人」は、性格のタイプでは決まりません。次のような条件が重なるほど、すれ違いが大きくなりやすいと、編集部は考えています。これは調査で検証された診断基準ではなく、上のデータをもとにした整理です。
- 夜間の授乳や寝かしつけが、どちらか一方に偏っている
- まとまって眠れる日が、ここ数週間ほとんどない
- 日中の家事・育児を、ほぼひとりで回している時間が長い
- 夫の帰宅が遅く、平日に家事・育児へ関わる時間が取りにくい
- 実家や友人など、頼れる人が近くにいない
- 「察してほしい」「言わなくても分かるはず」で、お願いを口にしていない
- 夫婦ふたりで、連絡事項以外の話をする時間が減っている
当てはまる数が多いほど悪いという意味ではありません。当てはまった項目は、「ふたりの責任」ではなく「いま変えられる条件」の候補です。たとえば、睡眠の確保や家事の分け方は、仕組みとして見直せます。
おすすめしたいのは、最後の2項目に注目することです。ふたりの会話が減ると、片方の限界が相手に伝わらないまま積み重なります。会話が戻る入り口は、夫婦の会話がなくなる原因と取り戻し方で詳しく書いています。
離婚の統計から見えること
厚生労働省の統計では、離婚の多くは話し合いで決まり、別居期間も短い傾向があります。産後クライシスと離婚を直接結んだ統計ではありませんが、離婚がどう進むかを知る手がかりになります。
厚生労働省「令和4年度 離婚に関する統計」(人口動態統計の2020年までのデータ)では、次のことが示されています。
- 2020年の離婚件数は193,253組。そのうち協議離婚(夫婦の話し合いによる離婚)は88.3%です。
- 別居期間が「1年未満」の離婚は82.8%でした。
- 同居期間が5年未満の離婚は58,846組で、全体の約3割にあたります(編集部が第6表から計算した値です)。
数字が示しているのは、離婚が長い別居や裁判を経て決まるとは限らず、日々の暮らしの延長で、夫婦の話し合いの結果として決まる場合が多いという点です。離婚が現実になる前に、ふたりが「いまどう感じているか」を伝え合える場があるかどうかは、大きな分かれ目になりえます。
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離婚を考える前に、夫婦でできる5つのこと
合言葉は「犯人探しをしない」です。気持ちが高ぶっている時期に、結論を急がずに済む工夫を並べます。どれも、編集部が一般的な考え方として整理したものです。
1. まず、睡眠を守る順番を決める
気持ちの話し合いより先に、夜間対応の分担を決めます。たとえば、平日の夜は妻、週末の夜は夫が担当して、担当でない側はまとまって眠る、といった形です。睡眠が少し戻るだけで、同じ言葉への受け取り方が変わることがあります。
2. 家事・育児を書き出して、時間の差を共有する
お互いの「大変さ」は、見えにくいものです。1週間分のやることを書き出し、誰がいつ担当しているかを並べてみてください。上の統計のように、数字で見ると「頑張っていないわけではないのに、差がある」ことが見えてきます。
3. お願いは「察して」ではなく、具体的に伝える
たとえば、妻から夫へ。「なんで気づかないの」と言いたくなる場面で、「今日はお風呂のあと、ミルクをお願いしたい」と伝えます。夫から妻へ。「手伝おうか」と聞く代わりに、「夕食後の片づけは、これから僕が担当する」と先に決めて伝えます。聞くより、担当を引き受ける形のほうが、相手の負担は軽くなります。伝え方のコツは、言いたいことが言えない心理と、角が立たない伝え方で具体例を紹介しています。
4. 月に一度、連絡事項なしの10分をつくる
長い話し合いは、産後の生活では難しいものです。「今月いちばん助かったこと」と「来月、変えたいこと」の2つだけで構いません。離婚という言葉が頭に浮かんでいるときほど、結論を出す場ではなく、気持ちを聞き合う場にします。
5. 外の力を借りることも選択肢に入れる
母子保健法第17条の2は、市町村が、出産後1年を経過しない女性と乳児に対して、産後ケア事業(短期入所、通所、居宅訪問のいずれか)を行うよう努めなければならないと定めています。利用の条件や費用は市町村によって異なるため、お住まいの自治体の窓口に確認してください。
夫婦で話し合うことが難しいときは、夫婦カウンセリングのような第三者の力を借りる方法もあります。費用や行く前に試せることは、夫婦カウンセリングは意味ない?費用相場と行く前に試せることで整理しています。
つらさが強いとき、産後うつが心配なときの相談先
気分の落ち込みが2週間以上続く、自分を強く責めてしまう、死にたい気持ちがよぎる。そんなときは、夫婦の問題として抱え込まず、医療機関や公的な窓口に相談してください。
日本産婦人科医会は、産後うつ病の罹患率をおよそ10%としています。産後3か月以内に発症することが多く、症状が2週間以上続く点が目安です。うつ病の既往や、パートナーからの支えが不足するといった育児環境が大きく影響するとされています。死にたい気持ち、強い自責感、家事や育児が行えない状態があるときは、精神科の受診が必要とされています。パートナーの側も、妻の様子が「いつもと違う」と感じたときは、責める前に受診や相談をすすめてください。
- 産婦人科、かかりつけ医、お住まいの自治体の保健師・子育て相談窓口
- DV相談ナビ(#8008):内閣府男女共同参画局が案内する全国共通の番号で、最寄りの配偶者暴力相談支援センターにつながります。通話料は固定電話と同じで、受付時間は各機関によって異なります。
- よりそいホットライン(0120-279-338):無料、24時間。厚生労働省が案内する相談窓口のひとつです。
- こころの健康相談統一ダイヤル(0570-064-556):お住まいの都道府県・政令指定都市の「こころの健康電話相談」につながります。通話料がかかり、受付時間は地域によって異なります。
ふたりレンサは、病気の診断・治療・予防を目的としたものではありません。つらさが強いとき、暴力や心身の不調があるときは、上のような医療機関や公的な相談窓口に相談してください。
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よくある質問
産後クライシスで離婚する夫婦は多いのですか?
産後クライシスを経験した夫婦のうち、離婚に至る割合を示した公的な統計は、編集部が確認した範囲では見つかりませんでした。ベネッセの調査では、妻の愛情実感が産後に大きく下がる様子が確認されていますが、すべての夫婦が離婚に進むわけではありません。
産後クライシスは妻が悪いのですか?
妻が悪いわけではありません。産後のホルモン変化、睡眠不足、家事・育児時間の差といった条件が重なって起きる状態です。夫が悪いわけでもなく、夫婦が同じ状況に別々の位置から立っていると捉えると、話し合いの入り口が見つかります。
産後クライシスになりやすい人はいますか?
性格のタイプで決まるものではありません。睡眠不足、育児が片方に偏る、夫の帰宅が遅い、頼れる人が近くにいない、夫婦の会話が減っている、といった条件が重なるほど、すれ違いが大きくなりやすいと考えられます。これは編集部の整理であり、調査で検証された診断基準ではありません。
離婚を考えてしまうほどつらいときは、どうすればいいですか?
決断を急がず、まず睡眠と家事・育児の分担を見直してください。夫婦だけで話すのが難しいときは、自治体の産後ケア事業や子育て相談窓口、夫婦カウンセリングなど、外の力を借りる方法があります。気分の落ち込みが2週間以上続く、死にたい気持ちがあるときは、早めに医療機関や公的な相談窓口へ相談してください。
産後うつかもしれない場合は、どこに相談すればいいですか?
産婦人科、かかりつけ医、お住まいの自治体の保健師・子育て相談窓口に相談してください。日本産婦人科医会は、死にたい気持ちや強い自責感、家事や育児が行えない状態があるときは、精神科の受診が必要としています。